icon-plane 京大・早大を経てマレーシアにきた社会心理学者に、日本との教育の違いを聞いてみた(前編)

京大・早大を経てマレーシアにきた社会心理学者に、日本との教育の違いを聞いてみた(前編)

社会心理学者であると同時に、
大脳生理学と経営学の融合プロジェクトであるニューロビジネス分野を研究している渡部幹先生。
日本の一流大学から、マレーシアにあるオーストラリアの名門モナッシュ大学に転職したという
珍しい経験を持っています。
日本、米国、オーストラリア(マレーシア)と3つの国で教育経験を持ち、
自らもマレーシアに住む小学生の親でもある先生に、
いま娘さんが受けているグローバル教育、そして日本の教育について、聞いてみました。

◼︎国に頼らなくても生きていけるように

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モナッシュ大学マレーシア校で理系・文系の枠を超えた研究に携わる渡部幹先生

 

ーー北海道大学で生物学、心理学を学んだあとに、UCLAで社会科学でPh.Dを取得された後、
京都大学助教、早稲田大学准教授と歴任されました。
日本の大学を出て、オーストラリアのモナッシュ大学のマレーシア校の准教授になられたのはなぜでしょうか。

震災をきっかけに海外で研究したいと転職先を探し、見つかったのがマレーシアでした。
この際にキャリアアップしようと家族を連れてやってきました。

ーーマレーシアで小学生のお子さんを現地のインターナショナル・スクールに入れたのは、
なぜでしょうか。

現在、娘はIB式のインターナショナル・スクールで、インド系、中国系を含むマレーシア人とともに、英語で授業を受けています。

これからは、仮に日本という国がなくなっても生きていけることが重要だと考えました。
(日本の学校教育は)日本でしか通用しません。ワールドスタンダードな価値観を持ち、 国に依存しないで暮らせることを目指して欲しいです。

◼︎「正解のない」問題でグローバルなコミュニケーションを教える

ーー授業は日本と比較してどうでしょう。

いまのところ、日本の教育より良いのではないかと思っています。
とくに、問題発見能力を鍛えられています。

たとえば、宿題で、正解のない問題が出てきます。
子供たちは、自分なりに正解だと思う結論を考え、そのための論理性を獲得し、相手に表現する訓練をしています。
さらには他者の結論と背景にある論理の違いを理解する。
その差を受けいれて、相手をリスペクトすることを学ぶのです。
グローバルなコミュニケーションでは、他者と自分の違いを認識し、理解を深めて共同作業することが非常に重要なんですね。
しかしこんなことは、日本の学校では行われていません。

さらにコミュニケーション能力、リーダーシップも必要とされます。

たとえば、娘は走るのが速いのですが、なぜか体育の成績はよくなかった。
理由を聞いたら、自分は速く走れるのだけれども、できない子を助けることができていない。

つまり、チームプレーヤーとしてやっていけるかを見ているんですね。
相手とコミュニケーションをとっているかが判断の材料になっています。

◼︎「まあ、いいから仲良くしなさい」という日本の教育

ーー一方、日本の学校のコミュニケーションの方法はどうでしょうか。

息子が日本で小学生だったときのこと。クラスの友達がいきなり殴りかかってきました。

息子が殴り返したので喧嘩になりました。
ところがこのときの先生の対応は、理由も聞かず
「まあ、いいから仲良くしなさい」というものです。
これが日本式のやり方です。
アメリカなら、いじめがあれば、双方の言い分を聞き取り、必要なら警察ないし弁護士を呼びます。

日本は「コミュニティ志向」なのです。
地縁や血縁など、しがらみでつながっている本当は好きでもなんでもない人たちと、いやでもその場で表面上は仲良くやっていかなくてはいけない社会です。
だから、なんでもうやむやにせざるを得ない。学校も会社もすべてこの論理で通っているのです。

といっても、日本人はコミュニティが嫌いなんです。
しかしそれ以外の生き方を知らないから、いやでもコミュニティに頼らざるを得ないんですね。
日本人同士でも、価値観が違うもの同士はうまくやることが難しく、いったん議論すれば喧嘩になってしまいます。そこで結論を出さず、なあなあで生きて行くことになる。

だから、信頼感はないけど、安心があるのが日本の社会なんです。
実際に実験してみると、見知らぬ人に対して信頼する力が日本人には弱いのです。
日本人が見知らぬ他人を信頼する比率は、アメリカ人より低いんですよ。

後編に続きます)

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渡部 幹(わたべ・もとき)
モナッシュ大学マレーシア校 スクールオブビジネス ニューロビジネス分野 准教授

UCLA社会学研究科Ph.Dコース修了。北海道大学助手、京都大学助教、早稲田大学准教授を経て、現職。実験ゲームや進化シミュレーションを用いて制度・文化の生成と変容を社会心理学・大脳生理学分野の視点から研究。現在はニューロビジネスという大脳生理学と経営学の融合プロジェクトのディレクターを務めている。代表的な著書に『不機嫌な職場 なぜ社員同士で協力できないのか』(共著、講談社刊)。その他『ソフトローの基礎理論』(有斐閣刊)、『入門・政経経済学方法論』、『フリーライダー あなたの隣のただのり社員』 (共著、講談社)など多数。

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