icon-plane 多様性の国マレーシアで見つけたこと:「グローバルの先輩」に学ぶ

多様性の国マレーシアで見つけたこと:「グローバルの先輩」に学ぶ

 

今回から、名門大学モナッシュ大学マレーシアで教える渡部幹先生の連載が始まります。社会心理学者で、大脳生理学と経営学の融合プロジェクトであるニューロビジネス分野を研究しているユニークな経歴をもつ渡部先生。米国の大学を卒業し、以前は京都大学、早稲田大学で教鞭を取ったこともあり、日米そしてアジアを見てきた先生に、マレーシアで私たち日本人が何が学べるのか? をテーマに語っていただきます。第一回はまず先生自身の自己紹介からです。

 

このコラムでは、これまでの海外在住経験と、学者として得てきた知識を通して、マレーシアの文化や教育について分析し、私たち日本人がここでの暮らしを通じて「何を学べるか」を考えていきたい。
 
第一回は、まずどんな研究をして、何をしているのかをみなさんにご紹介したいと思う。

 

米国留学、京都大学助教、早稲田大学准教授を経てマレーシアへ

 

出前一丁やサッポロ一番が発売され、少年ジャンプが創刊された年に、北海道の小樽市で生まれた。母方の祖父は、戦時中、北海道に3人しかいなかった獣医の一人だった。北海道大学の生物・獣医系に進み、祖父を継いで獣医の道に進んでくれると親戚が期待を寄せる中、心理学に惹かれ、文系に転向した。行動科学を専攻し、文学部を卒業後、進学。修士号を取った。

 

その時はまだビジネスの道に進むことも考えていたが、指導教官の薦めもあって3年ほど研究助手をした。そこで研究の面白さを知り、本格的に研究者になることを決めた。博士号を取っていなかったため、米国大学院留学を決意。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の社会学Ph.D.コースに進んだ。専門は実験社会心理学、今の行動経済学の先駆けとなる実験ゲームやコンピュータシミュレーションを使った研究を行った。

 

約5年にわたる米国留学の後、社会学博士号(Ph.D.)を取得。京都大学助教、早稲田大学准教授を経て、2013年、モナッシュ大学マレーシア校に赴任。スクール・オブ・ビジネス准教授として、同スクール大学院教育プログラムディレクター、同校ニューロビジネス研究所共同所長を兼任している。

 

研究者としてマレーシアでフィールド調査も

 

現在では、組織内での協力関係、信頼関係の構築をテーマに、ニューロサイエンス、実験経済学、行動遺伝学の手法を使った実験を行っている他、マレーシアの社会的起業家や、組織ガバナンスのフィールド調査など、質的ビジネス研究も行っている。

 

専門の研究で成果を出し、論文を発表することは、研究者として最も大事だが、一般の方々に研究成果から得られる知識をわかりやすくお伝えし、社会に貢献することも、また大切な使命だと考えている。そのため、一般、初学者向けの本の執筆や、一般企業、官公庁向けの講師・講演活動、TV出演(NHK『解体新ショー』、フジ『ホンマでっか!? TV』等)なども行ってきた。WEBビジネス誌のダイヤモンドオンラインでも、隔週で連載している(http://diamond.jp/category/s-black_psychology)

 

また、2016年に友人とともに、東京にて人事コンサルティング会社「株式会社ヒトラボジェイピー」(http://hitolab.jp/)を立ち上げた。同社取締役およびチーフR&Dディレクターとして、働き方改革を促進する組織労働診断ツール(2017年「日本HRチャレンジ大賞」奨励賞受賞)や、機械学習をベースとした、生産性向上のためのセルフ学習システムの開発を行っている。

 

学者として日欧アジアと見て来たが、マレーシアから学べることは思いのほか多いと感じる。子供のインターナショナル・スクールでの教えを見ていて感心することもあるし、社会起業家や、宗教など、全く知らなかった世界を見つけて興奮することもある。

 

考えてみれば、多民族多宗教のこの国は、マラッカ王国時代から「グローバリゼーション」の波にさらされてきたのだ。そのころ、日本はまだ戦国時代だった。その意味では、多様性やグローバル化に関して、この国は日本よりずっと先輩ということになる。このコラムではそんなマレーシアで私たちが何を学べるかを記していきたい。その考えをお伝えすることで、少しでも皆さんのお役に立てるならば、望外の喜びである。

 

 

渡部 幹(わたべ・もとき)
モナッシュ大学マレーシア校 スクールオブビジネス ニューロビジネス分野 准教授

 

UCLA社会学研究科Ph.Dコース修了。北海道大学助手、京都大学助教、早稲田大学准教授を経て、現職。現在はニューロビジネスという大脳生理学と経営学の融合プロジェクトのディレクターを務めている。社会心理学を中心として、社会神経科学、行動経済学を横断するような研究を行っている。また2008年に共著で出版した講談社新書『不機嫌な職場』が28万部のヒットとなったことをきっかけに、組織行動論、メンタルヘルス分野にも研究領域を拡げ、企業研修やビジネス講師等も行っている。
代表的な著書に『不機嫌な職場 なぜ社員同士で協力できないのか』(共著、講談社刊)。その他『ソフトローの基礎理論』(有斐閣刊)、『入門・政経経済学方法論』、『フリーライダー あなたの隣のただのり社員』 (共著、講談社)など多数。