icon-plane なぜ私たちは外国人を誤解してしまうのか

なぜ私たちは外国人を誤解してしまうのか

 

異文化理解の難しさは言葉や宗教、慣習によるものだけではない。実はちょっと聞きなれない「対応バイアス」というものがある。私たちの心には知らずに違う文化の相手を誤解してしまうメカニズムが働いている。社会心理学者でもある渡部幹
モナッシュ大学准教授に、どういうメカニズムなのかを教えてもらった。

 

マレーシア人の友人によく言われることの一つに「日本人は皆、働き者だよね」という言葉がある。間違っているとは思わない。実際日本人の労働時間はマレーシア人よりも長いだろうし、勤務時間内での真面目さもずいぶん違うだろう。

 

だが、日本人が好き好んで長時間真面目に働いているかというと、疑問だ。どちらかというと日本独特の職場環境のせいで、長時間働かなくてはいけない、空気やプレッシャーがあることの方が大きいと思っている。

 

「日本人は長時間労働が好き」なのか?

 

マレーシア人は、日本人の長時間労働を見て、「日本人はそれを望んでやっているんだ」と思う傾向にある。実はそれは特殊ことではなくて、人一般に見られる「対応バイアス」と呼ばれる心理現象である。

 

例えば、昔アメリカで行われた心理学実験にこういうものがある。

 

まず、当時アメリカと敵対していたキューバの指導者カストロに批判的な人に、理由をつけて、全く反対の行動を取ってもらう。大勢の聴衆の面前で、カストロがいかに素晴らしい人物かを力説する文章を読ませるのだ。

 

だが聴衆にはあらかじめ、この人は、「本音ではカストロ批判派で、実験のために親カストロの文章を読んでいる」と知らせている。彼が望んでカストロ礼賛している訳ではないと、皆知っているのだ。

 

それにも関わらず、聴衆は自然に「この人物は親カストロなのだ」と思いこむようになるという実験結果が得られた。つまり、人は他人の行動を見ると、自然に「それはその人がその行動を望んでいるんだ」と思いこむバイアスがかかるようになっているのだ。だから、マレーシア人は長時間働く日本人をみると「日本人は長時間働くのが好きなんだ」と思ってしまう。

 

それと同じように、私たちがマレーシアをみるときにも同じバイアスがかかる可能性があることを知っておくべきだ。

 

なぜマレーシアのモールの冷房は寒いのか

 

例えば、マレーシアの屋内冷房は効きすぎていると感じている日本人は多いだろう。ショッピングモールやオフィスは、日本人からすると「これでもか」とばかりに冷房が効いていて、上着が欠かせないひともいると思う。

 

先日、筆者の知り合いの日本人が、そのことについて、「マレーシア人は暑がりなんだね、どこ行っても、自分には寒すぎるよ」と話していた。だが、私の知る限り、多くのマレーシア人も、やはり日本人同様に「寒がっている」。つまり、「マレーシア人たちが暑がりだから、望んで冷房を強くしている」わけではないのだ。

 

ではどういう理由なのだろう。一度、ある場所の管理責任者に尋ねたことがある。帰ってきた答えは、「虫やカビ、害獣防止のためだよ」というものだった。日本で推奨される28度程度の冷房では、ハエや蚊、ゴキブリなどの害虫が大量発生する。それに伴い、ヤモリやネズミ等の動物もすぐに増える。また温度が高いと、場所によっては湿気がひどく、カビが大量発生する。冷房を強くすることで、それらを防いでいるのだ。オフィスやショッピングモールでは、夜には冷房を消すため、朝までの間に建物の中も高温多湿になってしまう。その間に害虫やカビが出ないくらい、建物そのものを冷やしておかなくてはならない。マレーシアの人々が日本人に比べて暑がりなわけではないのだ。

 

日本人ボランティアにありがちな「誤解」

 

先日、日本のある大学のボランティアサークルの方々が、マレーシアで環境を守るためのボランティアや社会活動の啓蒙をしたいとやってきた。彼らと話していて、筆者は違和感を持った。その理由は、彼らが漠然と「マレーシアの人々には日本ほど環境保護やボランティアという考えが根付いていない」という思い込んでいることだった。確かに、ゴミの分別はなされていない場合が多いし、リサイクル用のゴミ箱も日本のようにどこにでもあるわけではない。そういった「事実」から彼らは、マレーシアの人々は環境意識が薄い、と考えてしまったのだ。

 

だが、実際には環境に対する危機意識を持っている人々は、マレーシアにはゴマンといる。その中で日本人に考え着かないような創造的なアイディアで、環境保護に取り組むビジネスをしている人々もいるのだ。

 

ボランティアにしても、キリスト教コミュニティのチャリティやムスリムのチャリティはいたるところで行われている。1か月の日中の断食を行うラマダンには、食に困っている人々の苦難を分かち合い、皆が食べ物を得られるようにという願いも含まれている。

 

そういった知識を持たず、目の前の事実のいくつかを拾って、バイアスのかかった目で他文化を見ることは、その文化を無意識に卑下していることと同じだと筆者は考える。

 

マレーシアの文化について、日本人から見て、とてもよいと思える部分も、首をかしげざるを得ない部分もあるだろう。だが、そこから短絡的に「マレーシア人はそれを望んでいるんだ。好きなんだ」と考えることは避けるべきだ。もっと、その問題について調べ、偏見のない目で見てこそ、彼らの文化の本質を知ることができるのだと思う。

 

 

渡部 幹(わたべ・もとき)
モナッシュ大学マレーシア校 スクールオブビジネス ニューロビジネス分野 准教授

 

UCLA社会学研究科Ph.Dコース修了。北海道大学助手、京都大学助教、早稲田大学准教授を経て、現職。現在はニューロビジネスという大脳生理学と経営学の融合プロジェクトのディレクターを務めている。社会心理学を中心として、社会神経科学、行動経済学を横断するような研究を行っている。また2008年に共著で出版した講談社新書『不機嫌な職場』が28万部のヒットとなったことをきっかけに、組織行動論、メンタルヘルス分野にも研究領域を拡げ、企業研修やビジネス講師等も行っている。
代表的な著書に『不機嫌な職場 なぜ社員同士で協力できないのか』(共著、講談社刊)。その他『ソフトローの基礎理論』(有斐閣刊)、『入門・政経経済学方法論』、『フリーライダー あなたの隣のただのり社員』 (共著、講談社)など多数。

 

記事掲載日時:2018年02月07日 02:33