icon-plane 第18回 続・マレーシア野党は政権を取ることができるのか

第18回 続・マレーシア野党は政権を取ることができるのか

 

前回はマレーシア野党の始まりをご紹介しましたが、今回はその続編です。マレーシアの政党の大きな特徴は、政党同士が組んで連立しているところです。日本では与党がこのスタイルですが、マレーシアでは野党も連立で共闘しています。

 

野党の同盟で二大政党化?

 

 1998年のアンワル副首相の同性愛疑惑による解任・逮捕がきっかけで、イスラーム色の強いPAS(汎マレーシア・イスラーム党)は画期的な政治的役割を担います。華人系の支持者が多く、世俗的な民主行動党(DAP)と協力関係に入ったためです。与党・国民戦線に対抗して「代替戦線」として史上初めて野党が提携したのです。

 

 一方で、アンワル氏の妻、ワン・アジザ氏は国民正義党(PKN)を結成して「代替戦線」に加わり、1999年の総選挙でPASは史上最高の192議席中27議席を獲得しました。ちなみに、PKNは5議席を取りました。

 

 「代替戦線」は2004年に解散します。この解散はPASがイスラーム国家の創設を党是としていたことで他党との齟齬が出始めたことや、その後に2004年の総選挙でPKNとPASの間で議席配分でもめたことが原因でした。
 2008年には再び野党連合の「人民同盟」(PR)が結成されます。これには上記のDAPとPAS、PKNから名称を変えたPKRのほか、一時期はサラワク国民党(SNAP)も参加していました。
 しかしながら、この野党の同盟は一筋縄ではいきません。何せイスラーム国家を目指すPASと世俗的な政党DAP、そしてリベラルなPKRというイデオロギー的には左翼と右翼がいっしょになっており、のちに再び破綻します

 

 ここで少しDAPとPKRについて少し説明しましょう。

 

「シンガポール系の政党」DAPはペナンで多数派

 

 DAPは1966年に正式に創設されました。設立者はマラッカ出身のインド人、デヴァン・ナイール。戦後にシンガポールで活躍し、1954年にリー・クアン・ユー下の人民行動党(PAP)に参加。その後、マレーシア連邦が結成されると1964年の下院総選挙でクアラルンプール・バンサー選挙区から出陣してPAP党員として唯一議席を獲得します。

 

 シンガポールは1965年に分離しましたが、彼はマレーシアに滞在。PAPのリベラルな思想を引き継いで、DAPを設立しました。DAPがシンガポール系の政党とときおり言われる所以はここにあります。彼はその後にシンガポールに移り、シンガポール議会議員になります。1981年には第3代シンガポール大統領に就任しています。

 

 DAPは社会民主主義の確立のほか、民族間の公平性や多文化主義を掲げて、マレー人優遇政策の廃止や均等な教育を求めています。PASはマレー人保護を掲げ、その党是が国民戦線に受け入れられて一時期は与党にもなりましたが、DAPの場合は連邦政府とは一線を画し、一貫して野党の立場です。2008年の下院総選挙でペナン州では人民同盟(PR)が過半数を取りました。なかでもDAPは最多の得票数でしたので、現在の州首相はDAPの党員です。

 

マレー人が多いが誰でも党員になれるPKR

 

 PKRはマレー人が多くを占めますが、党員の加入はUMNOとは違ってどの民族にも開かれています。先のDAPも同様ですが、華人政党とのイメージが強く、華人やインド人の支持者が多くを占めます。この点でPKRはマレー人が中心になって多民族党員を許している唯一の政党ともいっていいでしょう。2004年には社会主義のマレーシア人民党(PRM)と合併して、人民正義党(PKR)と改名します。

 

 PKRは2008年の総選挙で31議席を獲得。スランゴール州やペナン州での得票率が多かったのが特徴です。スランゴール州議会ではPKRが過半数を制し、同州で初めてUMNO以外の州首相が就任しました。もともとPKRはUMNO出身の幹部も多いことから行政手腕は素人ではありません。
 アンワル氏は2015年に二度目の同性愛容疑で起訴され、有罪となってしまったことから妻のワン・アジザ氏が主に党を取り仕切っています。そのアンワル氏は今年6月にも仮釈放されることが決まっています。
 マレーシアの政治では、思想などがほとんど違う野党どうしも、与党の大連立組織、国民戦線のように同盟を組んで与党に対抗しています。民族どうしで政党が分かれているのは与野党同じで、連盟や同盟という枠組みを作ってしのぎを削っている状態ですが、2000年代に入ってからはこれが常態化し、まるで二大政党のような枠組みになってきています。

 

マハティール元首相のいる「希望同盟(Pakatan Harapan)」の誕生

 

 多様な思想で分かれている野党は政権を取れるのでしょうか。
 野党は「人民同盟」で協力していましたが、この協力関係は2015年に終焉します。イスラーム法(シャリーア)の導入に関する深刻な意見の相違が原因で、人民同盟からPASが離脱して解散しました。これに伴い、PASを除いた国会に議席のある野党は今度は「希望同盟」(Pakatan Harapan)を作ります。
 「希望同盟」の政党メンバーはPKRとDAPのほか、PASの一部メンバーからなる国民信託党(AMANAH)、そしてマハティール元首相が2016年に立ち上げたマレーシア統一プリブミ党(PPBM)です。PASがいないことでイスラーム色がかなり薄まった感じはありますが、DAP以外はいずれもマレー人が党員を占めており、もともと文化的言語的にも違うマレー人とDAPの華人がどう折り合いをつけるかが最大の焦点ではないでしょうか。

 

 この民族間の相違の課題は独立以前から顕在化しており、与党も苦心しています。その結果として、与党は民族別の政党を、互いの利益のために連盟として枠組みを作って現在に至っています。
 本当は一政党が民族に分け隔てなく加わって勢力を拡大すれば問題ないのですが、野党も結局、同じ体制を作らなければならないのが現状です。与党は現在の体制を変えることはおそらく不可能でしょう。野党が民族の相違と左右翼の思想を乗り越えた新たな枠組みを生み出さない限り、政権を握るのは難しいのではないでしょうか。

 

 

伊藤充臣■在馬12年目。マラヤ大学の歴史学科で修士号と博士号をだらだらと10年がかりで取得。趣味は読書と語学勉強。最近は日本の小説に読みふけっていると同時にミャンマー語の勉強も始めた。

 

記事掲載日時:2018年03月19日 23:31