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日本語「だけ」に接すると情報弱者になる

 

海外のニュースは全て日本語に翻訳されて伝わっています。しかし、モナッシュ大学の渡部先生は、日本語になったニュースをそのまま信頼しても良いのか? と疑問を投げかけます。

 

 

すでにご存知の方も多いと思うが、MLBで今年からプレイしている大谷翔平選手の活躍が凄い。流石に強豪レッドソックス相手に3連勝はならなかったが、それでも開幕直後から、投手として2連勝、そのうちひとつは7回1死まで完全試合、打っては3試合連続ホームランを含む打点11の大活躍だ。

 

「エースで4番」という、昭和の少年野球マンガの主人公を地で行くような活躍(正確には4番は打っていないが)に、米国メディアも驚き、賛辞が後を絶たない。野茂を皮切りに、松井、イチロー、ダルビッシュなど、これまでMLBで活躍する日本人選手は多く出たが、米国での大谷選手への熱狂ぶりは、それらを凌ぐ勢いだ。大手スポーツチャンネルのESPNが、WEBサイトに大谷選手のニュース専門のタブ”Ohtani Tracker”`を設けたくらいである。

 

メディアの翻訳情報をどこまで信頼できるのか?

 

筆者も日本のニュースのみならず、米国メディアでの大谷選手の紹介ぶりをよく読んでいる。そして、日本のメディアは感心するくらい、米国発のニュースを拾い上げて紹介している。本拠地エンゼルスの地元新聞のロサンゼルスタイムズは言うに及ばず、対戦相手の地元メジャー新聞から、星の数ほどあるe-スポーツジャーナルのコラムニストの弁など、うまく翻訳して記事にしている。

 

だが、大谷選手に関する日本語と英語の記事をザッピングしているうちに、筆者は少し違和感を持った。特に日本のメディアが「米国メディアが『大谷はこの惑星で生まれた存在ではない』と賛辞!」のような紹介をしたときだ。

 

この記事が出る前、筆者はその元となる英語サイトの記事を読んでいた。このサイトはDEADSPINというスポーツコラムサイトだが、基本的にファンのブログを集めているようなところで、記者が署名するような正規の「米国メディア」ではない。元記事には、本来載せてはいけない「4文字ワード」なども載せられており、あくまでも個人の感想の寄せ集めサイトである。

 

日本の正規メディアがこの記事を取り上げて「米国メディアがこう言った!」と報道していることに筆者は違和感を覚えたのだ。簡単に言えば、記事の出処の信憑性をきちんと把握しないまま、アメリカで発信される情報を鵜呑みにしてしまっているように思えた。

 

これがスポーツの感想だから良かったようなものの、もし政治や国際関係についての記事だったら、下手をすると大事になっていたかも知れない。そう思っていたら、スポニチの後藤茂樹記者が同じ懸念をコラムで述べていた。(https://www.sponichi.co.jp/baseball/news/2018/04/10/kiji/20180409s00001000409000c.html

 

言葉の幅を広げると、情報の吟味がしやすくなる

 

日本に来た外国人、特に学者が驚くことのひとつに、海外の有名な本やニュースなどが、すぐに日本語に翻訳されて伝わっていることがある。これは解体新書の頃からの日本の特長なのかも知れないが、海外の知識を日本語にして吸収する文化が根付いている。西洋哲学などの難しい本も、日本人はいち早く吸収し、そのおかげで近代化の基礎を作り挙げることができた。その意味では、海外の情報を即座に取り入れるのは、日本人のお家芸なのかも知れない。

 

だが、今のネット時代では、情報が溢れている分、情報リテラシー、情報の信憑性が問われる。「フェイクニュース」なる言葉が話題になる昨今である。そんな時代に必要となるのは、自国言語のメディアに依存するのでなく、個人が直に情報発信源に接し、その信憑性を慎重に吟味することだ。

 

その意味で、日本で日本のメディアだけに触れていては、その判断を誤る可能性が高い。筆者も、もし日本のニュースサイトだけを読んでいただけならば、上記の個人感想を「米国メディアの正式見解」と誤解していただろう。英語の記事に直に触れたからこそ、誤解せずに済んだのだ。

 

マレーシアに住む私達は、幸いにもさまざまなメディアにふれる機会がある。英語も使わなくてはならないし、中にはマレー語、中国語を使う人もいるだろう。そういった、言語の幅が広がるほど、情報の吟味をしやすくなる。

 

考えてみれば、世界に溢れる情報のうち、日本語で書かれたものはごく僅かに過ぎない。英語の情報が最も多いだろう。もちろん、中国語もそれに匹敵するくらい多いと思われる。その情報が正しいか間違っているかが判断できない場合を加味すると、日本語しか読まない人は自分が思っている以上に「情報弱者」だ。

 

インターネット上では、ネット情報を得ずに、テレビなどの既存メディアに頼っている人々(主に高齢者)を情報弱者呼ばわりする者が多いが、ネット情報を日本語でしか得ていない人も、グローバルに見れば実は同じということだ。

 

情報リテラシーが問われる昨今、さまざまな発信源に直に接することで、信頼に足る情報を得るテクニックが、これからは非常に大切になるはずだ。そのためには、他言語の習得と、他言語の情報発信源に触れる機会が必要となる。多言語国家であるマレーシアに住んでいることは、そのための練習舞台としてうってつけではないかと筆者は考えている。

 

 

渡部 幹(わたべ・もとき)
モナッシュ大学マレーシア校 スクールオブビジネス ニューロビジネス分野 准教授

 

UCLA社会学研究科Ph.Dコース修了。北海道大学助手、京都大学助教、早稲田大学准教授を経て、現職。現在はニューロビジネスという大脳生理学と経営学の融合プロジェクトのディレクターを務めている。社会心理学を中心として、社会神経科学、行動経済学を横断するような研究を行っている。また2008年に共著で出版した講談社新書『不機嫌な職場』が28万部のヒットとなったことをきっかけに、組織行動論、メンタルヘルス分野にも研究領域を拡げ、企業研修やビジネス講師等も行っている。
代表的な著書に『不機嫌な職場 なぜ社員同士で協力できないのか』(共著、講談社刊)。その他『ソフトローの基礎理論』(有斐閣刊)、『入門・政経経済学方法論』、『フリーライダー あなたの隣のただのり社員』 (共著、講談社)など多数。

 

記事掲載日時:2018年04月17日 16:55