icon-plane 若きマレーシア人女性社会起業家らによる難民の雇用創出

若きマレーシア人女性社会起業家らによる難民の雇用創出

 

「The Picha Project」はマレーシアに滞在する難民家族のフードデリバリーサービスを展開する社会企業だ。2016年の事業開始以来、マレーシア国内外で注目を集めている。今回、彼らの主催するイベントに参加し、インタビューを実施した。その模様をレポートする。(マレーシアマガジン=出水麻野)
 

バレンタインデーの夜に並ぶ難民たちの手による料理

 
UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)によると、マレーシアには2018年末時点でミャンマー、パキスタン、イエメン、シリア、ソマリア、スリランカ、アフガニスタン、イラク、パレスチナなどから約16万人の難民と亡命希望者がいる。これらの難民たちを支援する動きの中でも「The Picha Project」は注目を集めている。

 

2019年2月14日の夜、クアラルンプールのTTDIエリアにあるカフェレストラン「Common Man Coffee Roasters」でThe Picha Projectのイベントが行われた。

 

バレンタインデー仕様のテーブルセッティングを前に、ウェイターたちが最終の打ち合わせを行っていた。キッチンではシェフや料理人たちが慌ただしく、緊張感をもって動き回っている。

 

今宵カップルたちが堪能するコース料理は通常とは一味違っている。料理の一皿一皿はシリア、イラク、アフガニスタン、パレスチナからの難民女性によるもの。ウェイターたちは彼女らを支えるボランティアだ。
 
さらに今回はカリフォルニアで活躍するシェフのメイ・イバチ氏も特別に加わった。メイ氏はエアアジアの機内誌でたまたまThe Picha Projectを知り、協力を申し出た。
 
コース料理のテーマ「東洋と西洋の出会い」は、そんな難民女性らとメイ氏のコラボレーションを象徴している。
ここでコース料理の内容をご紹介したい。難民の出身地域の料理が並んでいる。
 
<スターター>カレー&ビーツのフンムスとピチャブレッド&クラッカー(ラニア/シリア)
<前菜>鶏肉の水餃子、イタリアンバジルペストと日干しトマトのソース添え(サラ/アフガニスタン)
<サラダ>ミックスグリーンサラダと柿、タンジェリン・シトラスのビネグレット・ドレッシングがけ
<お通し>日本キュウリとスイカのガスパチョ
<主菜>ローストチキンと野菜ピラフ、チョコレート風味のメキシカン・モレソース添え(ダリア/パレスチナ)
<デザート>チョコレートブラウニー、フレンチ・ジンジャー・カスタード&ラヴェンダー・ホイップクリーム添え(ムナ/イラク)
 

 

 

パレスチナ難民のダリアはなぜマレーシアにきたのか

 
参加したパレスチナ難民のダリアの言葉を紹介しよう。

ダリアは会計の学士を、夫はエンジニアの修士を持つ。夫婦はガザに4人の子どもと暮らし、夫は建設プロジェクトに従事していた。しかしイスラエルからの度重なる砲撃でインフラが破壊され続け、2016年に生活の糧を完全に失った。ついに選択の余地がなくなり、ガザを離れることを決意した。
 
当時、ガザの周囲は封鎖されており、唯一の脱出路はエジプトのアリーシへと続く地下トンネルだった。この地下トンネルは度々崩落し、多くの命が犠牲になっていた。幼い子どもを連れて通ることは不可能であったため、夫のみが命がけで脱出を試みた。夫が地下トンネルを通過するまでの30時間、ダリアは生きた心地がしなかった。その後、夫はエジプト当局に逮捕され、予定していた欧州行きの船に乗り損ねたが、この船が後に沈没し、結果的に命を取りとめた。
 
その後、夫はカイロを経てクアラルンプールへ向かった。ダリアは心細い日々を過ごしたが、1年後にガザの封鎖が解かれた。2017年にようやくクアラルンプールで再会できた家族であったが、それからも試練の日々は続いた。ダリアの会計の知識も、夫のエンジニアとしての経験も活かすことは許されなかった。夫はなんとか飲食店での仕事を得たが、子どもたちにTシャツ1枚を買うこともできなかった。
 
しかし、転機が訪れる。ダリアは同じく難民であった友人からThe Picha Projectのことを聞き、活動に加わった。今では、The Picha Projectを通して得られる収入により、ガザにいる親戚たちにも送金できることが何よりの幸せだ。
 

「The Picha Project」の生い立ち

 
The Picha Projectは、UCSI大学の学生三人が立ち上げた難民支援のプロジェクト。現在、シリア、パレスチナ、イラク、アフガニスタン、ミャンマー、パキスタンからの15の難民家族を支えている。難民家族の料理をデリバリーで提供することで、就職困難な難民に雇用を創出する仕組みを作った。2018年の総収入はRM140万、難民家族当たりの平均月収はRM2500だ。

 


 
プロジェクトを始めたのは、音楽専攻のユエット・キム・リム、心理学専攻のスザーン・リン、会計・金融専攻のスウィー・リン・リー。
 
「ピチャ」という名前は、ミャンマーからの難民の少年の名前に由来する。チェラスにある難民のためのラーニング・センターで英語を教えるボランティアをしていた3人は、難民の家族の貧困を目の当たりにする。そこで、ピチャ少年の家族を支えるために、彼の母親の作った料理を知人に売ることを思いついた。2016年にThe Picha Projectを法人として設立。その後、MaGIC(Malaysian Global Innovation & Creativity Centre )のプログラムに参加し、RM3万の助成金を得たことが転機となる。
 
「ただ目の前にある問題を解決しようと思っただけ。チャリティーの形では持続性と資金調達に限界があったため、ビジネスとしてやっていこうと思った」と語るのは、CEOのキム。
 
難民の家族は、NGOやUNHCR、既存の難民メンバーからの紹介を受け、面接後に採用される。採用条件は月収がRM1000以下の貧困層であること。採用で重視されるのは、仕事に臨む姿勢のみだ。料理に改善の余地がある場合、プロのシェフのコンサルティングが提供される。また台所の衛生状態は基準を設け定期的に検査がなされ、家族全員が腸チフスのワクチン接種を義務付けられている。
 

 

今後の展望について、キムは「2025年までに1000家族を支援できるようになりたい」と語った。また、現在の収入の内訳は、法人顧客のケータリング受注が70%、個人顧客の受注が20%、イベント収入が5%を占める。今後は、より個人顧客にも力を入れるため、セントラル・キッチンの創設も視野に入れているという。
 
今回のバレンタインデーのイベントのような、季節ごとのイベントの目的は、潜在的な個人顧客層の関心を高め、企業としての独創性を磨くことだ。そのためにも、商品開発、マーケティング、オペレーション分野での優秀な人材を獲得することが当面の課題だという。
 

記事掲載日時:2019年03月03日 09:34