icon-plane 人間関係を壊す直観的意思決定

人間関係を壊す直観的意思決定

 

SNSが人々の生活に浸透していき、「直感的な意思決定」をする人が増えている。表層的に物事を捉えて、すぐに反応してしまう。これがどういうことを生み出すのか、心理学的に見てみよう。

 

先日、日本関連のイベントのために来日した日本人女性が、運悪く怪我をしてしまい、急遽入院する羽目になった。

 

日本から来て仕事が始まった途端のこと。初日の準備中に階段で足を滑らせてしまい、腰の骨を折る重傷を負った。そのまま病院に担ぎ込まれたが、初めての国で、英語も覚束ない中、いきなりの手術で、彼女の頭はパニックになってしまった。

 

幸い、イベントに来ていたマレーシア在住の日本人の医療関係通訳経験者がさまざまな手続きや身の回りの世話をしてくれ、適切な処置を受けることができた。

 

回復は順調に進んだが、手術が必要なほどの骨折だったのに加え、部位は腰である。トイレもままならない。英語が苦手なので、さまざまなことを通訳の方に頼まなくてはならない。着替えや日用品は最低限のものしか持ってきていないので、不便この上ない。その上、仕事をほとんどできないまま、イベントが終わるまで約1週間の入院で、本人は忸怩たる思いだっただろう。

 

術後にも痛みが続いていて、寝ている以外のことはほとんどできない。その間にできることを考えた挙句、彼女はしばらく連絡の途絶えていた日本の友人たちに、メールを送った。突然の事故にショックを受けていること、仕事に貢献できず情けない思いをしていること、異国の病院でひとり入院していて心細いこと、帰国の算段についても不安があること、などを伝えたそうだ。

 

だが、その友人たちの中のひとりから、帰ってきたメールに、彼女はさらなるショックをうけてしまった。
「何? 不幸自慢?」
というメッセージだった。

 

あまりの心細さに友人からの温かい言葉を期待していた彼女には、相当衝撃的だった。ただでさえ、参っているところに、この言葉で彼女はさらに落ち込んでしまったそうだ。

 

SNSによって「表層的に物事を捉える人」が増えている

 

この例での、友人の反応はまるでネット上の「煽り」のようだ。このことは、今の日本のネット社会の現状を象徴している。
今はツイッターやインスタグラム、TikTokなどで、簡単に情報発信ができる。このコラムをご覧の方々にもやっておられる方は多いだろう。

 

少々話はそれるが、だがどんなメディアであれ、それらを公表するということは、公衆の面前で自分の存在を誇示していることを意味する。街角で、何かを訴えたり、路上パフォーマンスをして注目を集めようとしている人々と、本質的に変わりはない。そのこと自体は悪いことでもなんでもないが、リスクを忘れている人が多い。人の目に触れるほど、必ず一定の割合で足を引っ張る人、悪口をいう人がでてくる。そして、芸能人の「SNS炎上」などにみられるように、ある出来事をきっかけにそのことが大きなダメージにつながることもある。

 

さて、いったん炎上すると、情報は記号化する。つまり情報の背景や前後の文脈など考えずに情報の上っ面のみが取り上げられる。以前、五輪出場予定の水泳選手が白血病にかかってしまったとき、桜田五輪相の「本当にがっかりしている」という発言に「選手のことを気遣っていない」と批判が相次ぎ、失言と取りざたされたが、実はその前後には選手を気遣う発言を五輪相は行っている。だが、いったん炎上が始まると「がっかり」だけが記号化し、発言を聞いてない人々が前後の文脈も考えずに「五輪相は選手を気遣わないひどい奴」と思いこんでしまう。

 

この危険性は、先日日本でヒットしたドラマ、「3年A組」でも取り上げられた。菅田将暉扮する美術教師が、卒業式10日前に自分のクラスの生徒を人質にして学校に立てこもるという破天荒な設定ながら、その内容は正統派の教師ドラマだった。部活の顧問の言動を誤解した生徒が、「社会的制裁」を加えるべく、その証拠をSNSにアップしようとする。それを寸前で食い止めた教師(菅田将暉)は、「自分の起こした行動がどんな結果を招き、どれだけ人を苦しめるか、考えろ」とその生徒に説く。今時珍しいその熱血ぶりと説得力に、日本では大きな話題となった。

 

冒頭の例は、その日本の現状を端的に表し、かつ問題が深刻化していることを示すものだと筆者は思っている。つまり、SNSにより「表層的」に物事を捉える人が増えているということだ。

 

仮に、ツイッターやネットでこのようなことを書いたら、「不幸自慢?」のような冷笑的な反応はしょっちゅう起こる。上記のように、情報の上っ面だけを読んであまり考えずに反応する人々が一定数いるからだ。

 

また、自分の不幸さに対して同情されたいあまりに、話を盛って書く人も一定数いるだろう。こういった本当の「不幸自慢」も混在するようなネットでは、攻撃的な反応が出てきやすくなる。

 

「自分がやることは、他の人もやるだろう」というバイアス

 

心理学的に言えば、話を盛って「不幸自慢」をする人ほど、反応する側になると、他人を「不幸自慢するな!」と罵る可能性が高い。これは、「誤った合意効果」と呼ばれるもので、人は「自分がやることは、他の人もやるだろう」と考えるバイアスを持っていることがわかっている。このことから、彼女の友人は、もし自分が発信する側ならば「不幸自慢」する人なのかもしれない。

 

なぜ、その友人がそう考えてしまうのか、個々人によって異なるので、断定的なことは言えない。ただ、自己愛性パーソナリティ人は、自分に自信を持てず、自尊心を保つために常に他人より優位に立とうとする。自分より可哀そうな人がいると、必要以上に憐れんで、自分の優位性を確認するか、自分の境遇の方が大変なのだから甘えるなという攻撃的な態度をとる。もしかすると、そういうパーソナリティの持ち主なのかもしれない。

 

だが、話はそれだけにとどまらない。もっと深刻である。この例では、入院した女性は、友人に個人的にメッセージを送ったのだ。しばらく連絡を取っていなかったとはいえ、個人的に宛てたメールで、事の顛末もSNSに書くよりも詳しく述べている。

 

にもかかわらず、友人はネット上の書き込みへの反応と同じような返信をした。それは彼女からのメールを(ネットの書き込みを見るときと同じく)表層的な記号としてしか捉えていないことを意味する。

 

危険な「直感的な意思決定」

 

心理学的には、こういった反応は、fast-thinking, slow-thinkingという区別をされる。これはノーベル経済学賞を受賞した心理学者、ダニエル・カーネマンの言葉で、その名の通り、ヒトには2種類に意思決定ルートがあり、あまり論理的考えないで素早く行う直観的決定(fast-thinking)と、時間をかけて熟慮した上での論理的決定(slow-thinking)である。

 

直観的決定を行うときには、過去の経験にもとづいたステレオタイプや偏見などが入ってきやすく、時として大きな失敗を招く。だが、日常生活で意思決定をスムースに行うためには必要不可欠な意思決定方法でもある。

 

昔に比べて我々の得る情報量は、圧倒的に増えており、そのバリエーションも様々である。それだけの情報量を処理するには大変な認知的負担が必要となるのは事実だ。したがって我々はついついあまり考えない、直観的な意思決定を行いがちになる。ネットニュースのヘッドラインを見ただけで、内容を知った気になったりする。

 

そして、この例のように、個人的なメールでさえ、そんな直観的な処理をしてしまうのだ。それは人間関係にとって、一分の利ももたらさない。

 

私たちは、処理しきれないほど膨大な量の情報に晒されて生きている。ならば、重要な情報はしっかり考え、相手のことを見てやりとりをするべきだ。そしてSNSのように公的に情報発信をするならば、直観的な見方しかできない人々から、いわれのない攻撃を受ける可能性を常に知っておくべきなのだ。

 

筆者の経験上、その方法として最も大切なのは2つある。ひとつは、個人的なコミュニケーションは直接的に、だが丁寧に行うことだ。言葉で伝えること以上の含みはできるだけ持たさない。「忖度」などできないくらい、明確な伝え方をすることだ。そしてもうひとつは、公的なコミュニケーション(SNS)では、自分が誰かを皆知っている状況で、かつ駅前の公衆の面前で、話せる内容だけを話すべきだ。
 

 

冒頭の例の「友人」は、彼女のメールを不幸自慢と捉えた。そして、捉えるばかりではなく、そう思っていることを返信した。これで彼女との関係はもうなくなっただろう。それは彼女とっての不幸だけではなく、その友人とってもとてつもなく不幸なことなのだ。

 

渡部 幹(わたべ・もとき)
モナッシュ大学マレーシア校 スクールオブビジネス ニューロビジネス分野 准教授

 

UCLA社会学研究科Ph.Dコース修了。北海道大学助手、京都大学助教、早稲田大学准教授を経て、現職。現在はニューロビジネスという大脳生理学と経営学の融合プロジェクトのディレクターを務めている。社会心理学を中心として、社会神経科学、行動経済学を横断するような研究を行っている。また2008年に共著で出版した講談社新書『不機嫌な職場』が28万部のヒットとなったことをきっかけに、組織行動論、メンタルヘルス分野にも研究領域を拡げ、企業研修やビジネス講師等も行っている。
代表的な著書に『不機嫌な職場 なぜ社員同士で協力できないのか』(共著、講談社刊)。その他『ソフトローの基礎理論』(有斐閣刊)、『入門・政経経済学方法論』、『フリーライダー あなたの隣のただのり社員』 (共著、講談社)など多数。

 

記事掲載日時:2019年04月11日 16:45