icon-plane エシカル・ビジネスにこだわる女性起業家、エレイン・ホン・後編

エシカル・ビジネスにこだわる女性起業家、エレイン・ホン・後編

 

マレーシアのエシカル・ビジネス起業家のエレイン・ホン。パリで学び、パリ・ファッション・ウイーク、ロンドンの著名デザイナーの下で修業を積み、ついに世界的有名ブランドでの職を得る。あるデザイナーズブランドを支える諸外国における深刻な労働問題を知り、精神的に病みかけるが、マレーシアでビジビジ・イニシアチブと出会い、新たな拠りどころを見出す。(マレーシアマガジン=渡部明子)

 

マレーシアのエシカル・ビジネス起業家のエレイン・ホン。10歳からの夢を実現し、ファッションデザイナーの道を歩み始めた。パリで学び、パリ・ファッション・ウイーク、ロンドンの著名デザイナーの下で修業を積み、ついに世界的有名ブランドでの職を得る。ところが、とあるきっかけでデザイナーズブランドを支える諸外国における深刻な労働問題を知り、精神的に病みかける。当時、マレーシアで唯一のエシカルファッションを扱うビジビジ・イニシアチブと出会い、新たな拠りどころを見出した。

 

前編はこちらから。

 

日馬60周年事業をきっかけに独立

 

いつかは自分のブランドを持ちたいと願いつつも、その構想ははっきりせず、かつ、ビジビジに満足していたエレインに、大きな転機が訪れる。

 

2017年。ビジビジは日本の着物会社から500キロの着物を譲り受け、「ビジビジ×nakakomaレーベル」を立ち上げ、日馬60周年記念事業の一翼を担う。それまではシートベルト製バッグのデザイン・制作がエレインの主な仕事だったが、アンティークの着物からドレス類を創出することとなった。

 


 

「寄付された着物や帯はすべて、職人の魂を見るようでした。見たこともない美しさと見事な技術。とりわけ手縫いの技術に驚嘆しました。日本の着物職人の姿が脳裏に浮かぶこともあり、自分の手でアレンジしてよいのかと震えました」。着物職人の魂を汚すことなく作品を作ろうと、自分を鼓舞し続けたという。結果、着物ドレスらは大きな評判を呼び、新レーベルの売り上げは、ビジビジ過去最高を記録した。

 

一方、彼女の心の中では、本物の職人の仕事を目の当たりにしたことで、自分のブランド構想が明確となる。
「すべて自分の手で、金属パーツをなるべく用いない独自の服を、エシカルに、丁寧に作りたい」。2018年初頭、独立を決意。ブランドChaptersが誕生する。

 

大量生産服とエシカル・ブランドはどう違うのか

 

生地の専門家でもあるエレインならでは、Chaptersの服はすべて、肌に優しく穏やか。化学薬品を使用していないのはもちろん、染料にもこだわり、当地の気候にベストな素材を用い、フォーマルにもカジュアルにも着こなせるデザインだ。実際に着てみたが、袖を通すと心地よく、また、一見直線的なフォルムながら、緩やかにボディラインに沿い、お洒落に着こなせるから不思議だ。

 

 

とりわけ黒色の服は、大量生産服と異なり、同じ黒色でも深さと品がある。「薬品を用いずに黒色を定着させるためには、優れた染料、技術、時間を要しますから」。しかし、同系色の服、同系デザインの購入を考慮する消費者は、少しでも安い服を購入しようとする。

 

「エシカルというだけでは購入してもらえず、『肌を痛めません』ではアピールできません」。素材にこだわり、自らデザイン、生地をカットし、1着1着丁寧にミシンを踏むChaptersの服は、大手量産型ブランドと比較すると、値段が割高となる。良い作品を生み続けるには、売上が必要。結果としてブランディングとマーケティングに切磋琢磨しなければならず、制作に手が回らなくなるというジレンマサイクルに陥る。

 

新たなエシカル・ビジネスを起業

 

資金を得るため、ビジビジとの二足のわらじという選択肢もあった。しかし、ふとしたきっかけで、新たなビジネスをスタートする。

 

エレインは毎月、月経に伴う諸症状に苦しんでいた。婦人科医に相談したところ、「匂い防止用の香料を含む生理用品を使用しないこと。また、接触面がプラスチック製、中にビーズを含む品は使用しないことをお勧めします」とのアドバイスを受ける。布製製品も検討したが、使用に二の足を踏む。ボーイフレンドから、「じゃあ、自分で作ったら?」と声をかけられ、はっとする。「皮膚に安全な服が必要なら、皮膚に安心な生理用品も必要ではないか。自分のためだけではなく、他の女性にとっても、より良い選択肢を提供すべきではないか」。

 

試行錯誤を踏まえ、接触面にはドイツ製のオーガニックコットン、中間層には日本の最新テクノロジーシート、下層には通気性の高いシートを用いた生理用品、「enya」が完成した。

 

「コストの面から、製品の一部にプラスチックを使用しています。しかし、多くの方々が使用するようになれば、より良い原材料を使用し、かつ、価格を据え置くことができます。まだ完璧な品ではありませんが、確実に良い品であると自信を持っています」。

 

 ロングタイプ6個、ノーマルタイプ6個の合計12個入り1箱RM18リンギでテスト販売を始めたところ評判がよく、今後は、1箱RM10リンギでの販売を決定した。

 

 

「enyaが軌道に乗れば、Chaptersの新作にも着手できます」とエレインは期待する。
 エシカル・ビジネスの道は簡単ではない。良い企業、良い品というだけでは、消費者の心はつかめないからだ。しかし、「若い世代が、より良い選択肢を提供しなければならない」と、才能とパワーを秘めたエレインは熱く語る。

 

アパレルブランドChapters :https://www.facebook.com/chaptersclothingofficial/
オーガニックコットンの生理用品enya:http://enya.my/

 

記事掲載日時:2019年05月13日 11:51