icon-plane KLファッション・ウィークに見た、究極の日馬コラボレーション

KLファッション・ウィークに見た、究極の日馬コラボレーション

 

8月21~25日の5日間にわたり開催されたファッションの祭典“KLファッション・ウィーク”。第二弾は日本の伝統衣装を用いたコレクションを発表したビジビジ・イニシアチブの様子をレポートする。(マレーシアマガジン=渡部明子)

 

8月21~25日の5日間にわたり、ファッションの祭典“KLファッション・ウィーク”が開催された。3日目の8月23日、マレーシアの社会企業でエシカルファッションブランドのビジビジ・イニシアチブは、当地の有名若手ファッションデザイナーを迎え、日本の伝統衣装である着物をマテリアルとして用いた新たなコレクションを発表。

 

マレーシア人デザイナーであるシャミ氏は、日本の伝統職人の志を的確にとらえ、現代のライフスタイルに即した見事な作品を創出し、ファッション専門家やメディアより喝采を受けた。

 


ショーの約10日前。次々と仕上がってくるマテリアルをまとい、ランウェイでの着こなし方を何パターンも試すシャミ氏
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ビジビジ×中駒織物レーベルの誕生は、日馬国交樹立60周年を迎えた2017年10月に遡る。不用品を利用した製品製造というアップサイクル事業を営むビジビジ。その独創性と抜群のセンス、社会的存在意義を感じ取った中駒織物代表の中島一乃氏が、アンティークの着物や反物の数々を寄付したことに端を発する。中島氏は既に作り手が途絶えるなど、文化的価値が高いながらも販売できない着物類を抱えていた。

 

マレーシアで「もっとも有望なデザイナー」を起用

 

当レーベルはこれまで、ビジビジのシグニチャー商品「シートベルトバッグ」とのコラボ作品やドレスなどを生み出してきた。今回、ビジビジの共同創設者の一人であるノラ・マルテンス氏の希望と、KLFW創設者であるアンドルー・タン氏の後押しを受け、マレーシア国際ファッション連盟から「最も有望なデザイナー」と評されるトゥンク・シャミ氏を迎え入れることに成功。日本の伝統職人による匠の技を駆使した着物の数々は、新たな息吹を受け、さらに革新的に蘇った

 

着物をアレンジしたドレスと言えば、例えば留袖でいえば裾の柄を活かすなど、表地の目立つパーツを中心にデザインするのが一般的だ。ところがシャミ氏は違う。八掛などの袷地や裏地の持つ魅力に魅了され、組み合わせ素材としてのみならず、メインドレスの素材としても存分に多用。「無駄を出さない」「素材は余すことなく用いる」がモットーのビジビジの理念に呼応するだけではなく、日の目を見る機会の少ない部分にまで職人技を見出し、スポットを当てたのだ。シャミ氏自身が職人である証だろう。

 

本コレクションを目にした中島氏は、開口一番、「八掛の使い方が実に見事で素晴らしい」と、感無量の面持ちでつぶやいた。

 

ランウェイ先端後方から一部始終を見守っていたアンドルー氏は、ショーの直後、「シャミならやってくれると思っていたが、本当に素晴らしいショーだった」と、興奮冷めやらぬ表情で語っていたのが印象的だった。

また会場を訪れていた大手百貨店やファッション系メディアは、「最も気に入ったショー」「モダン、カジュアル、エレガント、そして伝統が融合する完璧な構成による作品群だった」と、手放しで評していた。

ショーの後歓談する(左から)宮川大使夫人、アンドルー氏、ラシュビン氏(ビジビジCEO)

「着物を手にする度に感動があった」

さて、シャミ氏がランウェイに戻って来たのは実に2年ぶりだ。彼が初めてビジビジの工房を訪れ、中島氏から寄付された着物を目にしたとき、あまりの素晴らしさに思わず声を上げたという。

「幅わずか38センチの反物や、すでに仕立てられた着物をマテリアルとして用いるのはとてつもないチャレンジですが、『これは僕の仕事だ、僕がやりたい』と、デザイナーへの就任を即決しました。着物や反物と向き合って作業を続ける日々においても、手にする度に感動がこみ上げ、ハサミを入れる瞬間の緊張は、言葉では表現しきれません」と、シャミ氏は語る。

また彼は、着物の歴史を猛勉強し、各時代で着物のデザインや着こなし方が変化することや、TPOに応じた着衣の違いに興味・関心を持ったという。「江戸時代の武士の礼服である裃や、芸妓の着こなしが好きですね。また、インドネシアや東南アジアの兵士とサムライとの共通点を見出したことで、ショーのラインナップ、構成が明確になりました」

ランウェイでは、兜に見立てた帽子、裃と芸妓の着衣の特徴を併せ持つ作品など、伝統に敬意を表しながらも革新的、かつ優雅で緩急あふれる作品の数々が披露された。

日本の伝統美、マテリアルの力がシャミ氏を奮い立たせ、その彼の手によって誕生した作品群は、観客を存分に魅了した。

中駒織物の前社長である故中島誉晧氏は、かつて、やはり振袖からドレスを制作する機会を得、作られたドレスへの命名を求められた際、熟考の末、「ふりそで」と名付けた。「人が心躍らせながら袖を通し、その袖を通す人を美しく飾るもの、それは“ふりそで”以外の何物でもない」と、故中島氏は名付けた理由を述べたという。

筆者は、ランウェイ上でのビジビジ×シャミの作品を眺めながら、故人の言葉の意味がようやく理解できた。
この度、マレーシア人であるシャミ氏は、美しい“ふりそで”の数々を見事に創り上げたといえるだろう。

* 現在ビジビジでは、BJIBIJI × T.Syahmiコレクションのプレオーダーを受け付け中。
担当:Ambika、村上
住所および連絡先:ME.REKA Makerspace, Lot 1C, Level G1 (A4 Entrance) Publika Shopping Gallery, Solaris Dutamas, 50480 Kuala Lumpur / TEL 03-6419 4755
参考:https://bijibiji.co/pages/klfw2019

記事掲載日時:2019年09月04日 18:18