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世界のファッション界をけん引するマレーシア人デザイナーたち

 

マレーシア人デザイナーによるファッションの祭典として今回で7回目となる「KLファッション・ウィーク」。2019年の今年は、80名のデザイナーを迎え8月21日~25日にかけてパビリオンKLで開催された。(マレーシアマガジン=渡部明子)

 

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パリ、ミラノ、ロンドン、ニューヨークでのファッション・ウィークはつとに有名だが、ファッションに敏感な世界の他の都市においても、次のシーズン向けデザインの発表の場としてファッション・ウィークが開催され、各著名アパレルブランドがしのぎを削る。KLファッション・ウィークもその一つだ。

 

実はファッション界を牽引するマレーシア人デザイナーたち

 

ところで、世界のファッション界をけん引するマレーシア人が多く存在することは、あまり知られていない。

 

「世界中のセレブリティに愛用され、映画“プラダを着た悪魔”でも幾度となく登場した高級婦人靴ブランドの創業デザイナー“ジミー・チュー”はどこの人?」との問いに、「イギリス人またはシンガポール人」と、ほとんどの人が答える。「現在世界中で注目されるモデストファッションのリーディングデザイナーであるメリンダ・ルイは?」との問いに、やはり「シンガポール人」と答える人が大半だ。「大ヒット映画『クレイジー・リッチ』で、圧倒的オーラと美しさを放ったミシェル・ヨーはどこの人?」との問いには、「香港人」「シンガポール人」と返ってくるのが常だ。ところが実は、全員マレーシア人だ。

 

建国以来ダイバーシティを誇るマレーシアではさまざまな文化が融合し、街は色にあふれている。若者たちの起業率は非常に高く、それらの背景は、「新しいデザイン」を創出する力にも繋がっている。

 

若手マレーシア人デザイナーの可能性は計り知れない。KLFWは、彼らのポテンシャルを最大限に引き出すためのプラットホームであり、未来のジミー・チュー、明日のメリンダ・ルイが誕生する場として、世界が最も注目すべきファッション・ウィークの一つである。

 

伝統文化を継承するバティックデザイナーが、KLFWトップ10に選ばれる快挙

 

RUZZ GAHARAは、昔ながらの銅製スタンプを用いたクラシックバティックを継承するバティックブランドで、コタバル(クランタン州)を拠点とする。創設者兼デザイナーのニク・ファイズ氏は、今年4月にマレーシア伝統工芸協会会長に就任するなど、まだ30代と若手ながら、マレーシアの伝統産業界の担い手として大きな期待を背負っている。

 

彼の作品は複雑な工程を踏まえたオールハンドメイドで、ロイヤルファミリーをはじめとする当地のセレブに愛されるだけでなく、欧米でも人気を得るなど、内外が注目するファッションデザイナーだ。人気の秘訣は、圧倒的な品の良さと、民族・宗教に関わらず愛されるモダンかつ繊細なデザインにあり、また、バティックをマテリアルとした衣服であることに気付く人は少なく、“その良さを分かる人のみが分かる”、粋なブランドと言える。

 

RUZZ GAHARAは、KLFWの伝統文化部門ではなく、一般アパレルブランド部門に挑戦し続けている。「伝統を次の世代に継承するには、一般のファッションの世界で戦える実力なしでは成し得ることはできない」と、ニク氏は考えているためだ。

 

今回、マレーシアのリーディングファッション雑誌のFEMALEが、“KLFW2019でもっとも魅力的だったブランドトップ10”にRUZZ GAHARAを選出。著名デザイナーを抑えて7位にランクインした。「素直に、とても嬉しいです。ようやく目標の第一関門を通過しました」。伝統文化を引っ提げ、ブランディングとマーケティングに挑むニク氏の挑戦は、まだまだ続く。

 

伝統文化を汚さないモダンファッションが評価されるライジングデザイナー

 

当地のファッション界で“ライジングデザイナー”と注目される15人の若手デザイナーがいる。サラワク州出身のマーティン・シャカー氏もその一人だ。

 

「クラシックでエレガント。服から靴・バッグまで、時代や男女を超えて愛されるブランド。日常にもイブニングドレスとしても着用でき、年齢を選ばない」と、絶賛されている。マーティンのランウェイでアクセサリーが用いられることは非常に稀だ。

 

2019コレクションにおいても、イアリングは一切用いられず、作品に馴染むネックレスが数点発表されたのみ。「私の出身地であるサラワクでは、ドレスやアクセサリーには大きな意味を持ちます。モダンを追求する中にも、我々の文化を決して汚さないこと。それが私のモットーであり、大きなチャレンジです」と、マーティン氏はショーの直後に語った。

 

“現代ファッション”という世界で、自身のアイデンティティを持ち、先人と伝統に敬意を表すからこそ、マーティン氏のブランドは芯を持ち、評価されるのだろう。

 

マレーシアファッション界を支える日本の存在

 

アジアでは、才能を有しながらも資金の問題等から才能発揮のチャンスを得られないデザイナーの卵が多い状況。一方、日本国内においては、伝統産業分野は苦戦を強いられている。

 

これらの問題を同時に解決できる方法として、2012年、田畑則子氏が創設する「サクラコレクション」がスタートした。デザインを学ぶ学生が参加することができるもので、マレーシア、シンガポール、タイ、ベトナム、インドネシア、台湾で開催され、それぞれの国の勝者は日本でファイナルを戦うというものだ。2013年の勝者であるラベンダー・リム氏は、KLFW2019のランウェイを飾るなど、サクラコレクションはマレーシアファッション界の発展に大きく寄与している。

 

また、本年のKLFWには、LEXUS、Panasonic、SHISEIDOがスポンサーとして参加した。

 

「なぜファッションショーに車メーカーのLEXUSが?」という問いを会場で多く耳にした。また、パビリオン外にレクサスの展示はあったものの、場内には“車”を感じさせるものは一切なかった。この2つの疑問に対する理由を、会場を訪れていた武山明生レクサス副会長に聞いたところ、「レクサスは、匠の技を本体から内装に至るまで駆使した“CRAFTED”な車です。例えば、内装の一つとしてドア側に切子調のガラスを採用し、また、労働生産性を顧みない職人技を要するフレームを採用するなど、“クラフトマンシップを愛する人々のライフスタイルに見合ったモノづくり”をコンセプトとしています。レクサスという車を売るのではなく、『レクサスを通してライフスタイルを提案する』、このコンセプトはファッションデザインの世界とも共通するもので、KLFWを支援すること、本イベントであえて“車”を押し出さないことは、自然の流れです」という答えが返ってきた。

 

武山氏の言葉は、五日間にわたるKLFWを、また80名に及ぶデザイナーらの切磋琢磨を、まさに象徴するものだった。

 

アンドルー氏とそのスタッフは、KLFW2020に向けて動き始めた。すでに来年のコレクションが楽しみでならない。

記事掲載日時:2019年09月04日 18:34