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第三回 社会生活圏の選択で元気になる

 

マレーシアに来てうつ病が治った、という日本人に会うことは珍しくありません。マレーシアの物の考え方、時間の流れ方が良く作用するのだとか。作者もそんな一人。現代人は東南アジアから何を学べるのか、マレーシアにどっぷり浸かった「ちゃらんぽらん王子さん」の好評連載第3回目です。

 

マレーシアだからできる生活範囲の選択

 

 マレーシアという国は不思議な国です。自分の立ち位置の社会生活圏を選択できるからです。
 以前にもお話したように、マレーシアはさまざまな民族が暮らす国です。確かにインドネシアもタイもフィリピンも多民族が暮らしている社会なのですが、マレーシアの場合は各民族の人口がそれぞれ多いため、コミュニティー、つまり社会生活圏(主に3つ)を維持しながら成り立っていて、これはほかではなかなか見られません。

 

 共通語のマレー語や英語がだいたいすべての人に通じる(いずれかを話せない人は結構います。また本格的な英語ではなく、日本人にとって生活だけだったら英検3級の実力があれば十分です)のですが、例えばマレー人はマレー人コミュニティー、華人は華人コミュニティー内でそれぞれ生活しています。これは言葉がそれぞれ違うため、自然発生的にできた社会生活圏なのです。中華レストランを例に取ると、中国語(または英語)でオーダーし、中華料理が出てくる。客も華人で、中国語が飛び交います。マレーシアにいながら中華圏さながらの疑似体験ができます。中華料理は豚や酒を扱うため、マレー人はレストランに足をまったく踏み入れませんので、ここで接触することはまずありません。また、テレビや新聞も言葉が違うため、華人の間のドラマや有名人をマレー人は誰も知らないということもよく発生します。買い物も華人だけがやっているところで買えば、それで他の民族の人たちとほとんど接触せずに生活することは可能です。

 

 
 ローカルの社会に入ると、自分でこれら社会生活圏を選んで生活することができます。私の場合、最初にマレー人のなかで生活をしていました。毎日、マレー料理を食べ、マレー人のテレビチャンネルを見て、マレー人の友人たちとマレー語を話していました。しかし、マレー人の生活にどっぷり入るとほかの社会生活圏がほとんどみえてこないのです。

 

 数年後、私は華人コミュニティーのなかで生活することにしました。このなかでも中華料理を毎日食べ、華人たちと暮らしてきましたが、やはり感じたのは、華人の社会生活圏に入るとマレー人の間で何が起きているのかわからなくなるのです。これはインド人コミュニティーに対してもそうで、インド人と社会生活をともにしない限り、インド人が好きなテレビ番組や映画、食べ物、有名人といったことは同じ土地にいながらまるで入ってきません。
 こういった現象は日本では起こりえないでしょう。日本語が北海道から沖縄まで通じるので、どこにいっても誰でも木村拓哉は知っているし、NHKの紅白歌合戦も誰もが知っています。しかし、マレーシアではこれはほとんどありえないといっていいでしょう。

 

好きな社会生活圏で暮らすことができる国

 

 これを逆手に取って、外国人である私たちは好きな社会生活圏を選択できます(逆にローカルはそれは難しいと思います)。日本国内だとどこでも日本語社会なので、選択の余地がありませんが、マレーシアの場合は華人社会が気に入らなければ、マレー人やインド人社会に飛び移ることができます。ある社会生活圏に入って無理して生活するよりも別の生活圏に入れば全然違った生活が楽しめる。もちろん2つの生活圏を行き来しながら生活することも可能です。

 

 私の場合はこれが精神的に楽でした。こういう選択が可能であることを発見したときは心底気が楽になりました。自分に合った生活の仕方を自分で選択でき、気に入らなければそこには入らなくていいのです。鬱のときにはすべてが億劫になり、その生活自体が嫌になったことがありますが、生活自体を変えて精神的にも刺激が与えられ、元気にもなれます。
 もちろんそのコミュニティーのなかにも苦手な人がいるでしょう。ただ、そういう人たちとはきっぱりと関係を断つか疎遠にしておくかでどうにでもなります。家族以外の人間関係はそれほど濃くはないのです。

 

 ただ、マレーシア、というより海外であまりオススメできないのが、日本人社会にどっぷりと浸かってしまうことです。日本以上に狭い社会(私が最初に来たときはわずか日本人は1万人ほど。今は2万人です)なので、精神的に疲れてしまう可能性があります。会社の上司やお客さんの友人を直接知っていたり、買い物先で上司やお客さんに偶然会ったりもしてしまうのです。しかし、日本人社会を生活圏に選択するのもあなた次第です。
 

 

 

プロフィール
ちゃらんぽらん王子
海外滞在歴約20年。東京で編集の仕事をしていたとき、3年にわたりうつ病を患っていたが、東南アジアに移り住んで自然治癒して今に至る。現在はマレーシアを拠点。インドネシアやタイ、ヨーロッパにこれまで滞在。