icon-plane イエメン内戦のシンポジウムでマハティール首相がメッセージ

イエメン内戦のシンポジウムでマハティール首相がメッセージ

 

2019年2月23日、クアラルンプールのISTACにて、「スタンド・ウィズ・イエメン」と題するシンポジウムと写真展が開催された。イベントに参加したので、その模様をレポートする。(マレーシアマガジン=出水麻野)

 

2019年2月23日、クアラルンプールのISTACにて、「スタンド・ウィズ・イエメン」と題するシンポジウムと写真展が開催された。マハティール首相の参加も予定されていたが見送りとなり、代わりに声明を外務大臣が代読した。

 

 

2400万人が支援を必要とするイエメン

 

イエメンでは、2015年からサウジアラビア主導の連合軍とイランの支援するフーシー派反政府勢力の間で紛争が継続している。

 

国際NGO「セイブ・ザ・チルドレン」によれば、過去3年で5歳未満の子どもが8万5000人以上飢餓や病気で亡くなった。WHOは、100万人以上のコレラ感染が疑われているとし、UNHCRによれば、2400万人以上が支援を必要とし、200万人以上が国内避難民となっている(2019年1月発表の統計)。

 

 

UNHCRマレーシアによれば、マレーシアにはイエメン人の難民登録者が約3000人いる。

 

シンポジウム冒頭、国際イスラーム大学の名誉教授であるタン・スリ・ダト・ズルキフリ・アブドゥル・ラザク氏がスピーチした。氏は人道援助が国境によって制限されるべきでないことを強調した。また2015年にイエメンに派遣されたマレーシア軍が、新政権のもと撤退したことを歓迎すると同時に、当初の派遣目的について問題提起がなされた。

 

マハティール首相「マレーシアは大国間の対立や干渉を警戒する」

 

その後、ダト・サイフッディーン・アブドゥッラー外務大臣により、急遽シンポジウムに出席できなくなったマハティール首相の声明が読み上げられた。

 

その中で首相は、イエメン内戦が大国間の代理戦争となっていることを指摘した。特に米国、英国、フランス等の国家が武器の輸出により紛争拡大に貢献していると強く非難。中東地域で繰り返される悲劇は、東南アジアでも発生する可能性があるとの認識を示した。その上で、マレーシアは他のASEAN諸国と共に、こうした大国間の対立や干渉に警戒し続けなければならないと強調した。「マレーシアは大国間対立においてどちらか一方の側につくこともなければ、軍事同盟や戦略的協定に頼ることもない」と述べた。

 

 

さらに、国家の結束が国家の安全の基礎であり、マレーシアは引き続き多様性を重視し、宗教や民族の相違が紛争の火種とならないように努力していかなければならないと述べた。中東地域では国家の結束が失われ、ムスリム同胞が互いに戦い、イスラエルと協調する国家もいることを「恥ずべきこと」として強く非難した。

 

マレーシアからイエメンへ10万米ドルの拠出も

 

首相は、イエメン内戦の紛争当事者に対して、2018年12月にスウェーデンのストックホルムで締結された和平協定を順守し、ただちに停戦するよう呼びかけた。その上で、港湾都市のフダイダを一時的な国連監視下の安全地帯として明け渡し、緊急人道支援を可能にすることを提案した。最後に、イエメンにおける人道支援に対し、マレーシアから国連を通じて10万米ドルを拠出することを発表した。

 

シンポジウム後半のパネルディスカッションでは、ダトゥック・セリ・ムジャーヒド・ユースフ・ラワ首相府宗教担当大臣、「インターナショナル・ムーブメント・フォア・ア・ジャスト・ワールド」代表のチャンドラ・ムザッファル博士、南洋理工大学教員のジェームス・M・ドーシー博士、イエメン難民を支援するNGO「TAYR」のアブドゥル・ラフマーン・アル=マーマリ博士、「イスラミック・ルネッサンス・フロント」代表のダト・アハマド・ファルーク・ムーサー博士が登壇した。

 

チャンドラ・ムザッファル博士は、マレーシアでは人道問題がしばしば民族や宗教と結び付けて捉えられ、イエメン内戦、パレスチナ問題、ロヒンギャ問題などに国内の非ムスリムからの関心が薄いことを問題提起した。同様に、国内のムスリムの間で、昨今のベネズエラ危機などへの関心が薄いと訴えた。

 

さらに、2015年のマレーシア軍のイエメンへの派遣は、サウジアラビア主導の連合軍に加担するもので、議会の承認を得ていなかったと批判した。また当時、この派遣について与野党からの追及がなかったことを批判した。同派遣は、在イエメンのマレーシア人学生を救出するための非軍事目的に基づくものとされていたが、これは完全な「カモフラージュ」であり、サウジアラビアとの「金銭的な関係」に基づくものだったと糾弾した。

 

ダトゥック・セリ・ムジャーヒド・ユースフ・ラワ首相府宗教担当大臣は、イエメン内戦をスンニ派とシーア派の宗派間対立としてではなく、地政学的な問題として捉えるべきだと訴えた。

 

シンポジウムでは、この他にも、在マレーシアのイエメン大使やイラン大使からのスピーチがなされた。

 

今回のイベントは、マレーシア・イスラーム青年運動(ABIM)、G25マレーシア、マレーシア人権委員会(SUHAKAM)、グローバル・ピース・ミッション(GPM)マレーシア、イスラミック・ルネッサンス・フロント(IRF)、インターナショナル・ムーブメント・フォア・ア・ジャスト・ワールド(JUST)など10団体が共同で開催した。

 

記事掲載日時:2019年03月03日 09:12